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正則とは何か
(what is regular ?)

行列が「正則」であることは、英語では「invertible」、「regular」、「non-singular」などと訳されるようだ。 先の2者はともかくとして、最後の表現によると「非正則」は「singular」ということになるわけだが、これほど間違った言葉の使い方はない。 このことを理解して頂くためだけに今回の記事がある。

「正則」をもう少し正確に議論するために、「階数」について述べなければならないが、これは行列でも最もわかりにくい概念の一つだ。 これを理解して頂くには、代数の議論で、ないがしろにされがちのディアジク(dyadic)について説明するのが良いだろう。

次の計算は、前回発表のページ「行列の計算」でいたずらし、3次の空間につき検討したものである。

 
      図1
  
      図2

ここで、項目1~6は、行ベクトルと列ベクトルとを交互に、本当に適当に決めている。 次に、項目7~9は、これらから作った3つのディアジクである。 これら、適当に作られた3つのディアジクから2つを選んだ和として、項目10~12が作られており、項目13は、項目7~9の総和である。

さて、これらディアジクと、それらの2個および3個の和のそれぞれから行列式を求めたのが、項目14~20である。 ディアジク単独および2個(まで)の和についての行列式は全てゼロになり、3つの総和だけが非ゼロの行列式を得ている。

さて、以上のことは、最初に項目1~6に与えた条件には依らないことである。ウソだと思われるなら、試してみられるが良い。4次以上の行列でも同じ議論になる。 項目7~9は、ディアジクそのものであるから、その階数は1であった。項目10~12は、ディアジク2個の和だから、階数は2である。 項目13において、階数は3となり、行列の次数に追いついたため、行列式は非ゼロとなったのである。

以上の議論で、ディアジクの階数は1と述べたが、容易に想像できるように、片方のベクトルがゼロである場合のディアジクは階数1にならないし、 (縦同志でも横同志でも)線形独立でない(2つのベクトルが互いに定数倍などの)ベクトルから作られたディアジクによる総和では、足した個数に満たない階数となることには注意を要す。

行列は線形変換(すなわち、原点を保存するアフィン変換)に対応するが、階数が n であるということは、変換した結果の次元が n にしかならないということである。 例えば、過去のページ「一次変換と行列、逆行列」において、変換結果が面積を持たない直線になってしまうのが非正則の場合である。 また、3次元空間で言えば、変換が「張る」空間が(原点を含む)平面にしかならないのが階数2の場合、(原点を通る)直線にしかならないのが階数1の場合である。

改めて「正則」とは何かと言うならば、その階数 n が次数 N に追いついたことを言うのである。 だから、n/N < 1 が「非正則」であって、n/N = 1 が「正則」である。 してみると、非正則を singular とする英語の表現は、むしろ逆であると言わなければならない。