一次関数の一般式というと、誰でも次の式を出して来るだろう。
次の式を出して来る人はあまり居ないと思う。
この後の方の式も一次式ではあるが、その一般式ではない。 それは単なる比例関係と呼ばれるであろう。 一次式に限らず、n 次式の一般式は、次数以下の項も含んでいて、あくまで最高次数が n であると認識されている。 そして最低次数であるゼロ次の項、すなわち定数項は、漏れなく添えらるべきと考えられているのである。
その一方、行列に関連する「一次変換」(「線形変換」)という時には次のような式が普通に出して来られる。
これは一次ではあるが、ゼロ次の項を含まない。ゼロ次を含むのはこの形である。
線形変換の変形では原点は常に原点へ射影される(一次変換と行列、逆行列)が、このアフィン変換はそれに併進を足したものである。 同じことは次の形でも書かれる。
この書き方はあながち横着をしているわけではない。
係数が未知の n 次式で、条件と解の複数のセットからその係数が求められることがあるように、係数が未知の連立一次式においても、条件と解の複数のセットから、その係数を求める場合がある。
定数部分を組み込んだ行列によると、この逆計算がやりやすく、次数プラス1セットの条件と解とから、逆行列計算を通じて全ての係数を求めることができる。
3組の条件と結果をまとめて書くと、
右辺の第2の行列に着目し、その逆行列を求めて各辺の右側から掛けることによって、係数全て(a*,* と b*)を求めることができる。
代数式の世界で「一次」と言うと定数を含む式を言うのに、線形代数の世界ではなぜか定数を含まないものが「一次」あるいは「線形」と名付けられている理由を善意に考えるに、上に示したような計算が行われるので、計算技術としては完結しているという見方はあるかもしれない。 しかし、数学の世界はあまり計算技術に真剣に取り組んでいないぞ、ということも過去に見ている(「行列式は要らない。けど、」)。
線形変換はアフィン変換のサブセットであり、実用上も、そちらの方がより大事である。この指摘なしに、いわゆる線形代数だけから群論などといった抽象的な議論を始められると学生は途方に暮れてしまう。
次回は、アフィン変換のさらにスーパーセットである「あおり」変換について述べる。